認知症診断・治療の最先端

荒井 啓行
東北大学加齢医学研究所
脳科学研究部門 老年医学分野 教授

 アルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)の発見は1901年度ドイツの精神科医であったAlois Alzheimer博士が患者Auguste D.氏をフランクフルトの精神病院において診察したことに遡る。1906年、その臨床病理所見がAlzheimer博士によってドイツチュ―ビンゲンで開かれた学会で報告された。その後1970年代からADは神経伝達物質の1つであるアセチルコリンが欠乏する疾患であるとする「コリン学説」に基づいてコリンエステラーゼ阻害薬の開発が進められ、1999年本邦で始めて「ドネぺジル」がAD治療薬として承認を受けた。2011年にはさらに2種類のコリンエステラーゼ阻害薬(ガランタミン、リバスティグミン)とNMDA受容体拮抗薬であるメマンチンが追加承認を受け、現在それぞれの特徴を生かして4種類の症状改善薬(Symptomatic drugs)が使用されている。一方、1980年代以降ADのより本質的な病態が論じられるようになり、Hardyらによる「アミロイド学説」が提唱され、約40個のアミノ酸残基から成るアミロイドベータ蛋白(Aβ)は神経細胞障害性を有し、タウ蛋白の異常リン酸化や神経細胞死を介してADを発症させると多くの研究者は考えるようになったことから、Aβやタウに対する直接的な作用機序を有する疾患修飾薬の開発が進められるようになった。疾患修飾薬として、Aβワクチン、Aβ凝集阻害薬、γ・βセクレターゼ阻害薬、タウ凝集阻害薬などが開発されているが、今日までに臨床第3相試験で有効性が認められたものはない。一方、ADのサロゲートバイオマーカーとしてアミロイドやタウイメージング、脳脊髄液アミロイド蛋白やタウ・リン酸化タウ測定法が開発された。米国ではAlzheimer's Prevention Initiativeなどの先制医療構想が始動している。将来はこれらバイオマーカーを用いたADの発症前診断疾患修飾薬による早期介入の時代を迎えると思われる。

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