サルコぺニアの概論とその超高齢社会における重要性

葛谷 雅文
名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学 教授

 高齢者人口がまだ少なかった時代にも、加齢と伴に四肢骨格筋が萎縮し、筋力、身体機能が低下していくことは知られていたし、それが当たり前だと思われてきた。しかし、超高齢社会に突入した多くの国々では、この加齢に伴う骨格筋萎縮・筋力低下が、医療的にも社会的にも大きなインパクトを与える時代になってきた。
 ローゼンバーグが骨格筋が高齢者で萎縮することを「サルコペニア」と提唱して以来、その存在が健康寿命に大きく関連することが明らかになってきている。サルコペニアの診断は種々の方法が提唱されているが、図1の欧州ワーキンググループ(EWGSOP)の診断法がよく使用されている。一方で、それぞれの項目のカットオフ値に関しては人種による体格の差が存在し、日本人では欧米の基準は使用できない。最近日本人やアジア人を対象とした報告も増え、我が国独自のカットオフ値を提言している論文が増えてきた。
 サルコペニアの存在が、将来の身体機能障害、入所、生命予後のリスクであることは既に多くの証拠が集積している。加齢に伴うサルコペニアの要因は多義にわたり、おそらく多因子が関わっているものと思われる(図2)。残念ながら、今もって薬剤による予防、治療介入は実現できないが、現時点での介入可能な戦略としては、栄養(十分なたんぱく質摂取)ならびに運動(レジスタント運動)が効果的であるとの証拠が蓄積しつつある。それぞれ単独よりも、両者の併用がより効果的であることが報告されている。
 いずれにしろ、サルコペニアを放置しておくことにより、フレイルならびに要介護状態に直結することは明らかであり、今後多様な医療現場、さらには地域でサルコペニアの関心が深まり、予防、さらには治療が広がることが必要である。サルコペニア予防は、間違いなく健康寿命の延伸に直結し、超高齢社会に突入した我が国にとって大変重要な病態である。

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