咀嚼機能が支える高齢長寿社会

菊谷 武
日本歯科大学
口腔リハビリテーション多摩クリニック 院長

 咀嚼機能を著しく低下させる要因に歯の喪失がある。歯の喪失の多くは、う蝕や歯周病によるもので罹患率の高い疾患である。一方で、平成23年度に行われた歯科疾患実態調査によると8020達成者(80歳で20本以上の歯を有する者の割合)は38.3%を示し、多歯時代とも言うべき時代の到来となっている。歯の維持による咀嚼機能の維持は、低栄養の防止に重要である事がわかっている。一方で、高齢者にとっては、残存歯数の少ない者は、肥満傾向になるとの報告も多くみられる。咀嚼機能の維持は、適正な栄養状態を維持するのに重要であると言える。
 一方、咀嚼機能の維持に欠かせない口腔の運動機能は、加齢とともに低下し、さらに、全身の運動機能を低下させる脳血管疾患や神経筋疾患の発症によって著しく障害される。運動機能の低下を原因にした咀嚼機能の低下した高齢者は多い。舌を中心とした口腔の運動機能により注目する必要がある。
 全身の筋肉の減少は、筋力の低下にもつながり、身体機能の低下を招く。筋肉が衰えると、基礎代謝量が減少し、エネルギーの消費量の低下を招く。これは、不十分な栄養摂取につながり、体タンパクの合成を低下させ、サルコペニアを取り巻く「負のスパイラル」を形成する。全身のサルコぺニアに伴って口腔のサルコぺニアが生じると、咀嚼機能や嚥下機能に悪影響を与え、さらなる摂取量の低下を招き、口腔のサルコぺニアが全身のサルコぺニアに拍車をかけることになる。サルコペニア対策のひとつとして、口腔の筋力維持が重要と考える。
 8020を達成した高齢者が増加している事実は、喜ばしい。一方、ひとたび口腔ケアの自立が困難になったり、全身さらには口腔にも運動障害がみられる様になったりした場合、その様相は一変する。継続的な口腔管理こそが高齢者の口腔機能を維持し、ひいては栄養状態の維持に寄与すると考える。


(図1) 咀嚼力に強く関与する舌の運動機能は加齢と伴に低下する。


(図2)舌の筋力をはじめとする口腔の力を維持することは、
咀嚼力を維持することにつながり、有効なサルコペニア対策となる。

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