先輩方からのメッセージ

宮地 佐栄 (みやち さえ)
医療法人渓仁会 札幌西円山病院
診療部 内科 医長
私が医師として大切にしてきたのは、「まず話を聞く」という姿勢です。患者の話に耳を傾けることで、その人の病気を一緒に考えるヒントが得られ、また、患者との信頼関係を築くことができると考えてきました。
2000年代前半、私は臨床研修を経て、医局人事により地方の市立病院の内科に赴任しました。外来は非常に混み合っており、患者を長く待たせる割に、十分に話を聞く時間が取れない現実がありました。「次回こそはゆっくり話を聞こう」と思っても、次の予約が3か月以上先になることも珍しくなく、自分の診療方針と現実との間にジレンマを感じていました。
一方で、入院診療も多忙ではありましたが、高齢の患者の最期に立ち会う機会も多くありました。その際、患者やご家族から「ここでよかった」と言っていただけたときには、人生の最期を支えるお手伝いができたという実感がありました。このような経験を通じて、私は患者やご家族に寄り添い、支える医療を目指したいと強く思うようになり、急性期病院ではなく、慢性期病院で高齢者医療に従事する道を選びました。
それから約20年、高齢者医療に携わってきました。当時の高齢者医療は、いわゆる「社会的入院」のようなケースも多く、若い医師にはあまり人気がなかったように思います。私自身も、急性期よりは時間に余裕があるのではないかと考えていました。
しかし実際には、慢性期病院でも安定していた患者が突然、肺炎や心筋梗塞、脳梗塞、骨折などを発症することがあり、緊急入院や治療方針の決断を迫られる場面も少なくありません。そうした判断の重さは、急性期医療と同等か、それ以上に感じることもあります。
さらに、高齢者は複数の疾患を抱え、ADLや認知機能も一人ひとり異なります。そのため、治療は単に疾患を治すことではなく、「その人にとって何が一番大切か」を出発点に考える必要があります。ここでも、患者や家族の話を丁寧に聞くことが、極めて重要になります。それは大変な作業であると同時に、大きなやりがいを感じる部分でもあります。
近年では、病気になっても入院せず、在宅や施設で過ごす高齢者が増えています。自分の最期の過ごし方を選べる時代になったことで、治療も多様化し、私たち医師の関わり方も広がっています。
最近、私は高齢者の方々が、身体的にも精神的にも以前より若々しくなっていると感じています。「老年」という言葉が、よりポジティブに受け止められるような医療を、皆さんと一緒に目指していきたいと思っています。ぜひ「老年科医」の扉を叩いてください。
経歴、専門分野など
和歌山県立医科大学卒、札幌医科大学大学院卒
日本内科学会 総合内科専門医
日本老年医学会 老年科専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
産業医科大学 産業医学基本講座修了 日本医師会認定産業医
※ 2025年12月掲載。所属は掲載当時のものです。


