先輩方からのメッセージ
老年科医としての歩み

田中 志子 (たなか ゆきこ)
医療法人大誠会 内田病院 老年科
老年内科を志したきっかけ
私が老年科医の道を歩むことになったきっかけは、実家の内田病院の存在でした。群馬県沼田市にある内田病院は、高齢者を主として診る慢性期医療の病院として、また複数の高齢者施設を運営する高齢者複合病院として、地域に深く根ざした医療を提供しています。
卒後は地元大学の内分泌教室に就職しましたが、実家を手伝いながら高齢者のケアと医療に携わる中で、この分野が自分に非常に適していることを実感しました。内田病院には開業以来、東京大学病院老年科の先生方が勤務してくださっており、そこで「老年科」という専門分野があることを知ったのです。振り返ってみると、開業当時当直に来てくださっていた先生方が、今や大学病院の教授や老年医学界の歴代の理事長となられており、当時から大変贅沢な環境で老年医学を学ばせていただいていたのだと改めて感謝の気持ちでいっぱいです。認知症の方や寝たきりの方にさまざまな取り組みを行うことで患者さんの状態が改善し、ご家族に喜んでいただける瞬間が、私たちスタッフの大きなモチベーションとなっていました。
この素晴らしい経験をどのように外部に伝えるか悩んでいた時、当時非常勤で勤務していた東大老年科の先生に学会発表を勧められ、チャレンジしたことが老年科医としての本格的な第一歩となりました。
老年医学の魅力と学び
今でこそ総合診療医の制度が注目されていますが、老年科こそが早くから疾患のみならず「その人そのもの」を見る心構えを持ち、全人的な医療を実践してきた分野だと確信しています。
老年科医として最も魅力を感じるのは、寝たきりの方であってもしっかりとケアと医療を提供することで生まれる微かな変化です。この微かな変化に深い意義を感じ、やりがいを見出すことができるのは、もしかすると老年科医だけに許された特権なのかもしれません。臓器のみを診るのではなく、その人が生きてきた過程や譲れない生き様、家族との関係から地域での役割まで考慮して医師としての仕事を全うできることが、老年科の真の魅力だと思います。
現在の診療と取り組み
現在、内田病院は日本老年医学会の研修病院として認定されており、私自身も外来、病棟、訪問診療、施設診療など多岐にわたる臨床を実践しています。同時に、群馬大学や帝京大学での医学生の授業や実習の受け入れ、初期臨床研修医の地域医療研修の指導も行っています。
元々教師になりたかった私にとって、後進の育成は楽しみながら取り組める重要な仕事です。慢性期医療や老年学に初めて触れた若い医師や学生たちが、キラキラとした表情でこれらの分野を体験している様子を見ると、この学問の素晴らしさを改めて実感します。
後輩へのメッセージ
老年科は、医師として最も包括的で人間的な医療を実践できる分野です。患者さん一人ひとりの人生に深く関わり、その人らしい生き方を支えることができる、まさに医師冥利に尽きる専門分野だと思います。
ぜひ老年科の門を叩いてください。そして、これからもっと老年科を学べる場所を増やしていかなければならないと考えています。高齢社会を迎えた日本において、老年科医の役割はますます重要になっています。皆さんと一緒に、この素晴らしい分野を発展させていきたいと思います。
プロフィール
田中 志子
内田病院 老年科
専門分野:老年医学、慢性期医療、認知症ケア
所属学会:日本老年医学会
群馬県沼田市の内田病院において、外来・病棟・訪問診療・施設診療を通じて包括的な老年医療を実践。群馬大学、帝京大学での医学教育にも従事し、次世代の医療従事者の育成に力を注いでいる。日本老年医学会研修病院での指導医として、老年医学の普及と発展に貢献している。
※ 2025年11月掲載。所属は掲載当時のものです。


