事例集

症例3尿路感染症で入院となり、ポリファーマシーの是正を必要とした85歳女性

Scene1 解答ならびに解説

  • 1)ポリファーマシー患者を診療する際に、病状のみならず、認知機能やADL、栄養状態、生活環境など、機能低下や日常生活に関連した要素を高齢者総合機能評価(CGA)により評価し、ポリファーマシーの問題点、例えば、不良な服薬アドヒアランス、特に慎重な投与を要する薬剤の処方、同効薬の重複処方、腎機能障害に十分に配慮されていない処方薬の存在、などがある場合には、処方を行っている医師・歯科医師のみならず薬剤師など多職種協働にて、該当薬の減量や中止ができるか検討していく。多剤服用の症例すべてにおいて修正が必要となるわけではないが、見直す必要性がある場合は非常に多い。CGAによる評価や多職種協働などを各医療現場において適用可能なものを適宜行い、薬剤の見直しを行っていくことが重要である。本症例は心不全と生活習慣病を治療中であり、歩行障害を有する要介護状態の高齢女性であり、ポリファーマシーも認められる。2018年に厚労省により発表された高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)1)では、ポリファーマシーに関連した問題点の例として、以下の表の項目を提示している。
    表1. ポリファーマシーに関連した問題点 A氏において入院時に明らかな点としては、特に慎重な投与を要する薬物の使用(ベンゾジアゼピン系薬のブロチゾラム等)、腎機能低下、および胃薬や降圧薬などの同効薬の処方である。このほかの薬物有害事象の存在や服薬アドヒアランス不良、低栄養、薬物相互作用の可能性については、入院中に問題があれば適宜多職種で検討を行うことが重要である。特に慎重な投与を要する薬物については、日本老年医学会が2015年に高齢者の安全な薬物療法ガイドライン20152)の中でリスト化しており、可能な限りそれらの薬剤の使用を避けるようにすべきである。【研修カリキュラム1.1. 高齢者総合機能評価(CGA)の実践、2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入)】
  • 2)今回、急性期疾患である尿路感染症を起こし緊急入院となったが、このような時には主疾患の治療のみならず、合併する疾患の薬剤の見直しを行う機会とすべきである。高血圧や糖尿病も近年高齢者に対する治療目標について、認知機能やADLを評価しながら行うことを推奨しており、当患者に対してもそのように対応することが求められる。
    例えば、高齢者高血圧については、2019年に日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン3)では、高齢者の血圧値の降圧目標は140/90mmHg未満とされているが、同時に自力で外来通院できないほど身体能力が低下した患者や認知症を有する患者などについては、降圧目標については個別に判断をすると記載されている。本患者では、膝関節症による歩行困難や感染症に伴う脱水・過降圧などが疑われるため、これらを踏まえた治療目標を検討すべきである。入院時の収縮期血圧は低めであり、降圧薬の減薬を行うほうがよいが、感染症の治療後の血圧値を観察しつつ、低血圧によるふらつきが起こらないよう、過度な降圧は避けることがよいと考えられる。
    一方、糖尿病についても2015年に日本糖尿病学会・日本老年医学会が高齢者の新しい治療目標を策定し4)、患者の治療目標を認知機能やADLに基づきカテゴリー1~3に分けることとしており、DASC-8(認知・生活機能質問票)による評価の有用性が示されている5)。本患者ではADLの上では要介護状態にありカテゴリー2に該当し、インスリンを使用しているためHbA1cの治療目標はHbA1c8.0%未満(下限7.0%)となる。本患者では糖尿病治療を緩和することができると考えられる。【研修カリキュラム2.2. 高齢者の高血圧症、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症などの生活習慣病の管理、2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入)】

Scene2 解答ならびに解説

  • 1)A氏の服薬アドヒアランスの低下が今回の入院で改めて判明したが、認知機能低下およびポリファーマシーが影響したと考えられる。認知機能低下は薬の処方理由や使用目的に対する理解力を低下させるため、なぜその薬を飲むほうがよいのか、何を目標として薬を使用するのか、ということがわからないまま患者は薬を服用することとなる。またポリファーマシー状態にあると、個々の薬の使用目的が理解できなかったり混同したりするほか、多すぎる薬は服薬意欲を低下させかねない。ポリファーマシーは飲み忘れとも関連しており、A氏では服薬チェックを行うための介助者が必要であることが明らかとなった。同時に薬を減らすことも考慮したい。A氏においては認めないものの、聴力低下や視力低下も同様に薬に対する理解力を低下させるため、これらを有する患者では注意が必要である。【研修カリキュラム1.2. 老年症候群、3.2. 機能の回復、維持を目指した治療の実践、2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入)】
  • 2)A氏の処方薬では、CYP3A4に関与する薬剤として、ニフェジピン、アトルバスタチン、ブロチゾラム、さらにはエリスロマイシンをあげることができる。このうち、CYP3A4の阻害作用を有するエリスロマイシンは基質となるニフェジピンやアトルバスタチン、ブロチゾラムの血中濃度を上昇させる可能性のある薬物である。本患者はエリスロマイシンの処方理由がわからないまま処方されていたが、継続の必要性があるのか、肺病変の有無を入院中に評価し、必要性が乏しければ対症薬として使用されているアンブロキソールと共に減薬を行うことが求められる。【研修カリキュラム2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入)】
  • 3)A氏の合併疾患や処方薬、さらには認知機能低下などを総合して振り返ってみると、内服薬は14種類で注射薬(インスリングラルギン)1種類のポリファーマシーであった。CGAによる評価で抽出可能な問題点としては、軽度の認知機能低下や歩行機能低下のほか、介護力の不足が認められ、ポリファーマシー関連の問題点として、服薬アドヒアランス不良、特に慎重な投与を要する薬剤に該当する薬剤の使用(ドキサゾシン、ブロチゾラム)、前述した薬物相互作用を有する薬剤の存在、さらには同効薬の重複処方として降圧薬3種類と胃薬2種類、糖尿病治療薬2種類が見られた。腎機能低下や明らかな低栄養を認めていないが、存在すれば腎機能低下に即した薬物療法を、低栄養があれば積極的な栄養補充を行う対策が必要であろう。
    具体的な処方の変更点としては、医学的な視点より、①正常血圧であるため、降圧薬は減薬できるのではないか?②インスリンを含む糖尿病治療薬が正しく使用されていないにも関わらずHbA1cが6.7%と高くなく、糖尿病治療薬を減薬できるのではないか?③胃十二指腸潰瘍の既往が明らかでないため、胃薬を減薬できないか?などの視点が必要であり、薬学的な視点からは、④特に慎重な投与を要する薬剤が使用されていること、⑤薬物相互作用のある薬剤の組み合わせが処方されていること、⑥服薬回数の多い薬剤の減量・中止ができないか?などである。
    個々の患者により介入方法が変わってくるが、A氏に対しては看護師や薬剤師との多職種カンファレンスを経て、以下のような処方に変更した。
    (1) 糖尿病治療薬については低血糖の回避と注射薬の管理困難より、グラルギンは中止とした。また、服用回数の簡便化を考慮し、入院中の血糖値をモニターしながら1日3回のメトホルミンを1日1回のDPP-4阻害薬に変更した。降圧薬については、当初血圧は低めであったことから特に慎重な投与を要する薬剤に該当するドキサゾシンを中止した。これによりその後の入院中の血圧値は120~140mmHgの範囲でコントロールできたため、他の薬剤は継続とした。また、明らかな動脈硬化性病変がないことからアトルバスタチンも中止した。
    (2) 睡眠薬のブロチゾラムは特に慎重な投与を要する薬剤であると同時に、薬物相互作用の影響を受ける可能性があったことから、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のゾルピデムに変更して経過観察した。A氏には易転倒性があることから、退院後に改めて減薬を目指す方針とした。
    (3) 過去の病歴からも胃薬を2種類内服している理由はわからなかった。服薬アドヒアランスを考慮し、1日1回の薬剤(ラベプラゾール)を残し、レバミピドを中止した。
    (4) 慢性気管支炎が既往にあった可能性はあるが、入院中には呼吸器症状、画像上の肺病変および肺機能検査上閉塞性障害が見受けられないがないことを確認のうえ、エリスロマイシンおよびアンブロキソールを中止した。
    (5) 膝関節症の疼痛緩和としてジクロフェナクが処方されていたが、腎機能低下や上部消化管出血のリスクがあるため、アセトアミノフェンに変更することとした。また処方理由が明らかでないメコバラミンは中止された。
    (6) 一方で大腿骨近位部骨折を起こしながら、再発予防目的の薬が使用されていなかったことから、今回新たにビスホスホネート製剤を使用開始することとした。
    本症例における処方薬への介入はあくまで一例であり、患者ごとに処方の見直しは個別の対応が必要となるが、本症例の退院時処方薬剤は以下の通りとなった。

(カンデサルタン8mg+アムロジピン5mg)配合剤 1T
分1 朝食後
フロセミド10mg 1T
分1 朝食後
タグリプチン50mg 1T
分1 朝食後
ラベプラゾール10mg 1T
分1 眠前
ゾピクロン5mg 1T
分1眠前
センノシド12mg 1T
分1眠前
セトアミノフェン300㎎ 2T
分2 朝食後と眠前
リセドロン酸ナトリウム75㎎ 1T
分1 起床時(4週に1回)

退院時にはこれまで診られていた医療機関に処方内容の変更とその理由を含めた診療情報提供書を記載し、通院継続するよう本人および息子に指導を行った。【研修カリキュラム1.2. 老年症候群、2.2. 高齢者の高血圧症、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症などの生活習慣病の管理、2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入)、3.2. 機能の回復、維持を目指した治療の実践、5.2. 多職種カンファレンスのマネジメント】

本症例のキーワード
  • 多病 (multimorbidity)
  • ポリファーマシー
  • せん妄
  • 生活習慣病管理
  • 多職種協働
引用文献
  • 1)厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf 2020.9.1閲覧
  • 2)日本老年医学会/日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015 メジカルビュー社 東京、2015年
  • 3)日本高血圧学会編集.高血圧治療ガイドライン2019, 2019 ライフサイエンス社
  • 4)高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会.日本糖尿病学会(編・著). 糖尿病治療ガイド2016-2017, 2016,文光堂5)
  • 5)Toyoshima K, Araki A, Tamura Y, et al. Development of the Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System 8-items, a short version of the Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System 21-items, for the assessment of cognitive and daily functions. Geriatr Gerontol Int 18:1458-1462, 2018